漫画のすすめ、『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』
アニメを原作とする一般的にも話題になった作品『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』。そのコミカライズ作品を知らない人は多そうだ。コミック版は全三巻。基本的なストーリーは同じだが、展開がかなり異なる。
小学生の頃、”じんたん”は”めんま””あなる””つるこ””ゆきあつ””ぽっぽ”の六人で”超平和バスターズ”を結成した。”じんたん”はみんなを引っ張り、何でもできるリーダーのような存在だった。しかし”超平和バスターズ”の些細な言い争いが原因となり”めんま”を事故で亡くしてしまう。以来それをきっかけに、”超平和バスターズ”はばらばらになった。そして時が経ち、高校生になった”じんたん”こと宿海仁太は学校にも行かない典型的引きこもりとなっていた。誰に慕われることもなく、自堕落に過ごしていたある日、宿海仁太の前に幽霊となった”めんま”が成長した姿で現れる。幽霊”めんま”にはお願いがあり、それは”みんな”とでなきゃ叶えられないと言う。
といった内容。
1
自分はもしも幼馴染達ともう一度集まったらと考えたことがある。
ありきたりだけど、きっと今の話と、昔話に花を咲かせると思う。
昔にあった気まずかった事や、喧嘩した事だってきっと笑って話せるだろう。
それはそれだけ年を経て、取るに足らないくだらない事だったり、取るに足らないが幸せだった瞬間の話だからだ。
そして、それはきっと楽しい。
でも、その話がもしも誰かの死のような事だとしたら途端に口を噤み、みんなの出方を伺うような状態になるかもしれない。
それはそれだけ年を経て、色んな考え方を持ち、その考え方は必ずしも共有できないかもと恐れるからだ。個々の古傷を抉る真似になってしまうかもしれないと恐れるからだ。
しかしそんな共有できない考え方っていうのはつまり、人に話せなくて自分で解決した事にしてしまった事に違いない。凝り固まり、自分に都合のいいようにしてしまった事だ。
そんな問題の解決も、結局”自分が、みんながどうしたいか”と”話す”事だ。
みんながどう思っているかという事はみんなにしか分からないし、自分がどうしたいかって事も、みんなの気持ちを聞かないと分からない。
結局噤んだ口を開き、古傷を抉るしかない。
そうしないときっと楽しくない。
過去が悪かったとしても、それで今が悪くなるなんてのはおかしい。
だから、もしも幼馴染達ともう一度集まったら、みんなと過去に合わせられなかった感情の答え合わせができたなら、きっとどうあれ楽しい。
過去の思い出をより鮮やかにできる。
今を知り、過去に悩み留まる必要もない。
すっきりと今を確かめられる。
『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』はそんな”もしも幼馴染達ともう一度集まったら”という話だ。
2
幽霊”めんま”は”じんたん”にしか見えていない。
だから”めんま”と直接話すことができるのは”じんたん”だけだ。
それがこの物語の面白い所だ。
”超平和バスターズ”のみんなは”じんたん”を通じてのみ間接的に会話できる。
表情も、声も聞こえない言葉の思いは察する事しかできない。
例えば、この記事は相手に楽しいと思ってもらえるように書いている。
しかし、この記事を読んでくれている相手の顔なんて当然見えていないし、今読んでくれているあなたの言葉を聞く事でこの後の記事の内容を変化させることはできない。
楽しいと思ってくれるだろうと、書くしかない。
直接見えない、間接的に思いを伝えあうというのはきっと文通に近い。*1
その難しさは誰もが体感するところだろう。
”めんま”と”じんたん”が、”超平和バスターズ”のみんなに対して想いを伝えるのはそんな風に難しい。*2
だから”超平和バスターズ”のみんなは”めんま”や”じんたん”の思いを察し、気持ちを汲み取ろうとする。
そんな会話は苦悩を生み、時にすれ違い、ぶつかりあう事になる。
3
この作品のアニメ版と漫画版の違いはフィーチャリングされている話の違いだ。
アニメ版は”めんま”を失い苦悩する残された”超平和バスターズ”の面々の少し捻くれた青年らしい恋模様や人間関係をメイン軸に話を展開している。
対して漫画版は”めんま”と”じんたん”、”めんま”と”超平和バスターズ”、”じんたん”と”超平和バスターズ”、主役の二人と”超平和バスターズ”のそれぞれの関係をメイン軸に話が展開される。
端的に言えばアニメ版は群像劇、漫画版は”めんま”と”じんたん”が主人公となっている。
漫画版の特に大きな違いは、幽霊”めんま”を”超平和バスターズ”の面々が認知するタイミングがアニメ版より早い所だ。
アニメ版では幽霊”めんま”の実在を、”超平和バスターズ”の面々は後半までほぼ信じていなかった。
漫画版ではアニメ版より”めんま”と”超平和バスターズ”にスポットが当たる事が多い為か、アニメ版とは異なる展開*3で”めんま”の実在が全員に知られる。
アニメ版を観た後にこの漫画版を読んだ自分は、このシーンの登場の早さに驚き、その後の変化する展開にわくわくした。ここが好きだから漫画版の方が好きまである。
その展開により漫画版は「”超平和バスターズ”の面々が”めんま”と向き合うシーン」が多く描かれている。*4
また漫画版はクライマックス前のとあるシーンの展開も大きく違ったりして、それもまた上記のシーンと同じぐらい好きなシーンだ。
それに作画がとても綺麗で丁寧で、背景の描写も細かかったり、
漫画ならではのモノローグの入れ方など、
アニメ版を観た人も楽しめるようなこだわりを感じる出来だ。
4
総じてどちらもお勧めできるが、個人的にはその展開や作画の好みから漫画版を推したい。
”じんたん”の一生懸命さと、
”めんま”の純粋さと、
”あなる”の必死さと、
”つるこ”の友愛と、
”ゆきあつ”のひたむきさと、
”ぽっぽ”のがむしゃらな在り方は、誰にしてもやはり格好良い。
是非、観て貰いたい。
漫画版はKindle版や、各種マンガ読み放題サイトにもある。試し読みもできる。
アニメ版もAmazonプライムビデオやdアニメストアなどの各種アニメ動画配信サービスで観る事ができる。